タグ : イヌワシ

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先日の船津伝次平の記事で、昔の山は禿山状態と書いたが、実はその話は天狗様、つまりイヌワシの生息環境とも密接な関係にある。

イヌワシは晩秋から冬の落葉期と木々の葉が転用する前の春は、比較的谷筋の見通しの良い斜面などで狩りを行う。この時期の主な獲物は、林縁部周辺で採餌活動を行うノウサギやヤマドリを中心に、テンなど中型の生きものであることが多い。

そして季節が進み葉が転用すると、繁殖中であれば主な餌動物がヘビ類に変わってくる。イヌワシは翼開長が2m近くあり、森や林に入ることを得意としないため、谷筋や岩場などの開けた空間を見つけて狩りを行う。この辺りは餌動物の傾向が被るクマタカとはかなり事情が異なる。グライダーのような翼型のイヌワシに対し、クマタカは翼開長が短く翼面も幅広な形状であるため、狭い空間を苦にせず移動することができるのだ。

イヌワシの話に戻るが、繁殖をしていない個体の場合は営巣地に執着しないため、開けた草地の多い標高の高い森林限界付近などで狩りを行う。その昔、それがイヌワシは高山の鳥と言われていた所以だが、そもそもイヌワシは旧北区出身であり、大陸系亜種がステップや亜高山帯を生息地としていることからもそのことは見て取れる。

以上のことから、イヌワシが生息し易い環境というのは、たとえうっぺいした森や林であっても、雪崩草地や倒木によるギャップ、茅場環境など開けた空間が適度に点在する必要性があるということになる。

その点、人為的ではあっても、高標高地の牧場などは草地環境であるため、イヌワシにとっては非繁殖期の狩場としての利用価値が高いことを意味し、恐らくは現状でも狩場として活用するのに適していると思われる。

通常、日本の湿潤な環境下では開けた空間は数年で低木性の植物に覆われてしまい、イヌワシの狩場としてしては使いづらくなってしまうが、先の牧場のような場所は人の手によって手入れが行われるので、継続性の高い狩場が整備されていることになる。その一例として見れば、岩手など東北の高地にワシが多いのにはそんな理由もある。

イヌワシは現状では生息数が減少の一途をたどっているが、これは人が山や森を生活の場として使わなくなったことにも原因の一端があり、実は薪炭林や茅場利用が多く見られた江戸時代から戦前戦後の人為的環境下のほうが、彼らにとっては住みやすかったのではないかと考えられている。

自然を守る=森の木々を伐らない、という図式は実はワシにとってはあまり都合が良くなく、木々を伐採して森を人為的に再生させることのほうがむしろ好ましい..奥山の自然林を伐るという意味ではなく、あくまで人工林の手入れのことを指す..のである。

という理由から、我々がイヌワシの生息地を保全していくために必要な施策は、人が適度に山や森を利用していくことだと考えている。

20151201

今の時期は新たな情報を求めて伐採地ハンターと化す。

先週まで比較的暖かったのだが、今週に入って寒風吹きすさぶ冬らしい雰囲気になってきた。写真の伐採地は林道を上り詰めないとアプローチできないが、上越国境の山々を見ている限り、ここもすでに雪景色になっているだろう。

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米軍機が演習を理由に、天狗様の生息地内を低空で飛行しているらしい。機影と爆音に驚いて天狗様が逃げ惑ったという情報もあり、オスプレイの横田配備の報もあったばかりで、由々しき問題だと頭が痛い。

同じ航空機でも旅客機などははるか高空を行き交うため、天狗様にとっては見えないに等しいが、軍用機は演習で低空をかすめて飛行するため、機影そのものもさることながら、ソニックブームによる衝撃波の影響はかなりのものと推察する。不安定な岩場に載っている新しい巣などはひとたまりもないだろう。

国防に関わることで、演習そのものをすべて止めろとまでは言わないが、せめて希少な生きものの生息地ぐらいは調べた上で、そこを避けるぐらいの配慮は欲しいものだ。一応、関係グループが代表して然るべきところに申し入れをするということなので、まずはその推移を見守りたい。

米軍機だけでなく自衛隊機もよく飛んでいる
(記事中でF-15と書いているがF-18ホーネットの間違いかな)

山でよく見掛けるといえばヘリもその一つ。遭難救助やその訓練、はたまた某かの調査または測量など理由は色々あろう。が、航空機は一瞬で飛び去るが、ヘリは状況によってはホバリングしてその場に留まるケースもあるので更に始末が悪い。それが強力なダウンフォースを生むオスプレイともなれば..

20150514

今日も谷の中を低空でヘリが行き来しているところに遭遇。横っ腹にハミングバード?らしきものが描かれているが、よくよく見ると機体の名前にはおしどりと書いてある。一体どっちなんだ!?

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そんな眺めをいつか何処かで見た憶えがと探したところ、あったあったよ屈斜路湖のレジャーボート軍団。ハクチョウなのにコマドリにライチョウ、それにモズだって。なんともよく判らんネーミングセンスだこと(笑)。

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鷲瞰図

2014/10/6

GoPro HERO4はとうとう4K30Pまで到達してしまった。4Kで30Pはいわゆるナンチャッテ4Kに他ならないが、あの大きさであっさり実現されると、肩を並べられたm4/3一族最大サイズのGH4の立場は何処へ(笑)。

アクションカムの名の通り、1080/60PがGoProの本来の立ち位置だろう。さらに720ながら120Pがイケるので、地上波ならハイスピード撮影もバッチリOKだ。というか業界的には待ちに待ったスペックだろうね。やはり激しく動く状態..GoProは動くものを撮るカメラではない..で撮影するなら最低でも60Pは必要だから。

しかもSilver Editionには背面にタッチ操作可能な液晶モニターまで搭載。スマホがあればWi-Fiで飛ばせるとはいえ、この辺りはバッテリーの持続時間との兼ね合いもだろうが、ある無いでは雲泥の差がある撮影分野もあるので、その恩恵はいかばかりか。

そして、いつも楽しませてくれるGoPro映像だが、とうとう天狗様にも背負わせたくれた。

小型のハヤブサなどでは激しく羽ばたくせいもあってバタバタする映像も、大型のワシになるとさすがにビタっと安定して映るのはさすが。流行りのドローン映像もさることながら、やはり鳥自身に背負わせて撮ってもらうのには敵わないね。これこそまさに鳥瞰ならぬ鷲瞰図だ。

さらに天狗様ではないがオマケを2つ。

風切り音がイイね!

 

20141006

今日は午前中は雨模様であったが、台風18号はあっという間に通り過ぎて行ってしまって、お昼には晴れて暑さがぶり返してきた。明日からは秋晴れに戻るようだが、すぐまた19号がやって来るようで外ロケは頭が痛い。

春山

2014/4/13

20140413

この春も山神様に会いに雪山へ。

残雪期ならではの眺望は実に美しく、疲れも忘れる眺めの中、時折頭上を東へと飛び去るサシバの春の渡りを追いつつ、天狗様の背中を見下してきた。

積雪量はやはり里同様に例年よりは多く、久しぶりにアイゼンを引っ張り出しての登山であった。遠望する上越国境の稜線には、春山を楽しむ登山客の姿も多数見られ、春の登山シーズンの始まりを感じた。

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20140107

赤城高原のこの冬一番の冷え込みは今朝であった。日の出前に氷点下12℃まで下がって、犬の水バケツは完全氷結である。昨日のような風もなく、雲ひとつ無い放射冷却によって、上越国境の山々が見事なモルゲンロートに映えた。1月に入り厳冬のシーズンを迎えるが、それは凛とした美しい季節でもある。

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そして北部フィールドも雲ひとつ無く晴れ上がり、絶好のワシ日和に。風がなく上着も必要ないほど陽射しがあったが、風がないということは天狗様の行動にも影響が出そうなもので、午前中は例のごとくクマタカ相手に暇つぶし。が、昼頃より突然の天狗フィーバーに沸いて、久しぶりに昼飯のカップラーメンが倍返し状態であった。

雄がゆっくり先行し、やや遅れて雌が後追い。突然雄がジグザグに反転と降下を繰り返しつつ獲物を牽制、緩斜面の疎林に突っ込むと見せて急上昇すると、すかさず雌がフォローに入って同様の動きを繰り返す。ペアで連携してハンティング行動を行うのは、猛禽類の中でも天狗様独特のものだ。ペアのどちらかが入れ替わってすぐにはなかなか難しい動きだが、シーズンを幾つか過ごせば息もぴったりである。

厳冬期と聞けば生きものにとって厳しい世界を想像するが、捕食者として食物連鎖の頂点に立つ天狗様が狩りを行うということは、その姿は見えずとも、狙われ食われる側の餌動物たちも必死に生きている証となる。厳冬に息づく生きものたちの気配を感じたいものだ。

天高く

2013/9/30

20130930

額の汗を拭い、最後の急登を前に一休み。明日から天候は思わしくないらしいが、どうしてどうして本日は空が高い。しかも月末携帯不通だ(笑)。

目を凝らせば県境付近の二千m前後はすでに紅葉が始まっている。

ふと気が付けば、早々と天狗様の姿を確認。ただ、機材はバックパックの中だし、準備には一手間掛かる。ここは双眼鏡でのんびり行方を追う。

20分ほどで残りの急登を登り切り、撮影機材をセットして、待つこと更に1時間。今日は天気同様にワシ運もよく、頻繁に狩場とする伐採地に親子3羽で姿を見せた。

そう、1日いてたった5秒の目視で終わることもあれば、こんなフィーバーなこともある。

日本で最も広い行動圏を持つ生きものを相手にするということは、この現実を避けては通れない。

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時を超えて

2013/5/26

所属する研究会の大御所よりお声かけいただき、

隣県のワシのおヒナ様の様子を見に行ってきた。

それまでおとなしく伏せていた70日齢少々の三ツ星が、

風が吹くと思い出したように白斑を5月の陽光に輝かせる。

実はこの場所、その昔何度か訪れたことがあり、実に28年ぶりの再訪なのだ。

もちろん、ペアはとうに入れ替わっているとは思うが、

地図片手に初めて訪れた時も、確かこんな日射し眩しい季節だったと記憶している。

20130526

少しずつ全国の生息地から姿を消しつつある昨今、

四半世紀過ぎても、いやそれ以前はるか昔から、

連綿と子育てを続けているペアがいることの嬉しさよ。

山の神に感謝、天狗様に乾杯。

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謹賀新年

2013/1/1

20130101

蛇を狩る天翔る狗鷲の如く、

俊敏にそして果敢に攻めていきましょう。

今年もよろしくお願いします。

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お株を奪う

2012/12/3

久しぶりに面白いシーンを見た。イヌワシがクマタカのお株を奪うような行動を見せたのだ。

ひとしきり巣材を運んだ後、休憩していたのかと思いきや、突然下流側の林内にいたクマタカに対し排斥行動に出た。

最初は林縁部で攻撃を仕掛けたのだが、クマタカはすぐにブナ林に逃げ込むいつもの行動。それが面白くなかったのか、イヌワシ(雄)はしばらく間合いを計るように停空飛翔状態でブナ林の上空で静止、タイミングを見て一気に林内に降下、ブナの枝伝いにクマタカを追い回し始めたのだ。

これには見ていた私も驚いたが、一番驚いたのは狙われたクマタカのほうだろう。よほど泡を食ったのか、イヌワシの攻撃を避けようとバランスを崩してクルクルと林床近くまで落ちて、一度は視界から姿を消した。

すぐにバタバタと上がってきたが、低い枝に止まり直したところを再びイヌワシに突っかけられると、一旦は諦めて反撃しようとしたのかお互い向き合うように翼を広げて対峙。しかし、クマタカが堪えきれずに林内を遁走し始めると、イヌワシも同じようにヒラリヒラリと木々をかわしつつ後を追いかけ、そのまま両種とも視界から姿を消したのだった。

30分ほど消失地点付近を凝視していたが、谷の上流側上空を旋回するイヌワシ(雄)を発見する。もしかして、と思い拡大望遠でそのうを確認するが、さきほどのクマタカが食われた痕跡は認められなかった..

大型猛禽類の中では比較的翼が幅広で短いクマタカは、林内をすり抜けるように移動するのが得意である。それに対しイヌワシはグライダーのごとく翼が長いため、開けた空間での行動を得意とする。と、杓子定規に語ればまあそんな感じなのだが、実際はイヌワシもヘビなど小動物を狩ることがあるため、一般に考えられている以上に林内を利用するようである。

ただやはり、狭小空間は本来好む主戦場ではないため、形勢は危うかった可能性もあったが、今回のケースでは明らかにクマタカが不利のように見えてしまったのもまた事実。襲うものと襲われるもの、その立場の違いも大きく影響していたのかもしれない。

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20121114

言うまでもなく鳥は空を飛ぶ生きものである。

鳥はその大小にかかわらず、身体的な特徴として両腕を2枚の大きな翼として利用できるように進化してきた。そしてその2枚の翼を用いて、地球上の大空を自身の力のみで自由に移動できる点で、地べたを四肢で移動する以外に手段のない他の生きものとは大きな違いがある。鳥好きのその多くは、空を飛ぶことができるという能力にその魅力を見いだす人は多いはずだ。

飛ぶことがある意味当たり前な鳥にあって、空を飛ぶことで主たる生活の糧をえる種類には、高速で飛ぶもの、長距離を移動するもの、水中に潜るものなど、その能力がひときわ長けた仲間が当然のごとくいる。とりわけ、他の生きものを直接襲って餌とする猛禽類の飛翔能力の高さは、鳥の仲間の中でも特筆すべきものがある。

学名の Aquila verreauxii からも判るとおり、ブラックイーグル(現地での呼び名)はAquila属、つまり旧北区を中心に日本にも生息するイヌワシの仲間である。英名はVerreaux’s Eagle(日本名コシジロイヌワシ)で、生息地はアフリカ大陸。大きさやフォルム、それに生態はまさにイヌワシのそれとうり二つであり、全身黒色の羽衣に覆われ、背中から腰に掛けて和名の由来でもあるワンポイントの白が美しい。

写真集「GoldenEagle イヌワシ(平凡社)」の著者である、滋賀県在住の写真家須藤一成氏の撮り下ろしになる本作品では、そのブラックイーグルの巧みな飛行術を、余すところなく見事なカメラワークで捉えている。

猛禽類は小型になるほどその敏捷性は増す傾向にあるが、翼開長がゆうに2mを越す大型のワシが、空の高みから地表すれすれまで、重力を無視したかのようにアクロバティックでダイナミックな動きを見せるのは圧巻である。常にペアで行動すると形容されるほど楽しげに舞うディスプレイフライトや、餌の大半を占めるダッシー(ハイラックスの現地名)との攻防、そしてハンティングシーンなど。特筆は大型のワシではまず見られない宙返り飛行である。

撮影地であるジンバブエのマトボヒルズは、世界遺産にも登録されている貴重な場所だ。本作品では、その奇峰奇岩の太古の風景をバックに、悠然としてそれでいて力強い飛翔能力を魅せるブラックイーグルの姿を堪能できるはずだ。

The most beautiful flyer in the world.

世界で最も美しき飛行家。サブタイトルにある上記フレーズは、本作品で編集とDVDオーサリング、それにパッケージデザインを担当させてもらった私が贈った言葉だ。飛ぶことがすなわち生きることを体現する飛行術の先輩である鳥に対し、敬意を現す意味で、人類初の飛行に成功したライト兄弟の機体からお借りした言葉でもある。

空を飛ぶ生きもののその完成された美しい姿を、ワシ好きや鳥好きにとどまらず広くご覧頂ければ幸いだ。