観察中にハンターに声をかけられたので、これ幸いと情報収集したところ、予想通りこの秋は山の実りは悪くなかったようだ。片品の知り合いの猟師も似たようなことを言っていて、ミズナラやコナラなどどんぐりは出来が良かったらしい。特に山中のどんぐりが良かったようで、里山界隈でのクマの目撃例は少なかった。もちろんだから駆除数が少なかったかといえばそんなこともなく、例年並み程度は捕殺されたとも聞くが。
よくクマ棚の数が少ないと、クマ自体も少ないと勘違いしている輩がいるが、クマ棚とクマの数に相関性はない。クマ棚が一つの斜面に沢山あったとしても、そのほとんどは一頭ないし親子など身内で作ったものだ。クマにもナワバリがあるので当然の話しである。ただ、例外なのが芽吹きの頃。冬ごもりから明けてすぐの頃は、争いよりも食欲優先と見えて、同じ斜面に複数のクマが見られる時がある。
クマ棚を目にするのが落葉期の冬から春にかけてのためか、棚が出来るのは秋だと勘違いしている人がいるが、クマが木に登ってドングリを食べるのは、盛夏から秋のはじめにかけてのことである。まだ葉が青いうちに枝が折られると、葉が落ちずにそのまま枯れるため、密集して枝が折られた場所がクマ棚として目立つようになる。理屈から言えばサルがやっても同じことになるが、移動しながら餌を探すサルと違ってクマは1カ所に留まる傾向が強いため、より大きな棚ができることになる。
しかし、その頃はまだ実が青くそんなに旨いとは思えないのだが、実の出来不出来を知っているクマにしてみれば、餌の競合を避け、先食いしている状況にあるわけだ。では誰と競合しているのかといえば、昨今増えた増えたと騒がれているイノシシとシカであることは明白だ。蹄の連中は木に登れないため、落果したドングリを狙っているわけで、クマにしてみれば落ちる前に食べてしまう戦略をとっていることになる。クマ棚とはその過程できる産物というわけだ。
と言うことで、クマ棚の数が少ないとはどういう状況か、それはクマが木に登る必要がないことを意味する。落果したどんぐりを食べて事足りるということは、体力を使うを木登りをすることもなく、競合他種と分けあっても問題ないレベルの餌量であるということなのだろう。
冒頭のハンターいわく、この冬はクマが穴に入るのが早いとも言っていた。十分に栄養確保ができたクマたちは、本格的な積雪を前に、お気に入りの冬眠穴に早々に逃げ込んていることが想像できる。用心なく安易な場所に潜れば、運悪く穴撃ちされてしまうこともあるが、そこはそれ野生の勘で犬にも近づけないような斜面を選べば安心だ。