photrest banner

密怪生命

2018/11/4

この秋の自然界をテーマにした写真展で最大の目玉だったのは、間違いなく今をときめく佐藤岳彦氏だろう。

某自然写真の大御所をして、次は佐藤岳彦の時代だろうと言わしめる若手の有望株..という言い方を今どきするのかw..の佐藤氏は、個人的にも以前からその独特の視点による切り口には大いに興味を惹かれていた。

一億総カメラマン時代の現在、美しいものを当たり前のように美しく撮れる写真家、カメラマンの類は掃いて捨てるほどいると言って良い。

人と同じものを撮っていてはオリジナリティを主張することもままならないが、さりとて自分だけのテーマを見つけることもそう容易い話でもないのは、悲しいかな凡人でも少し考えればすぐ判る。佐藤氏はそんな中で明らかに他の同業者とは異なる視点を持つ稀有な表現者である。

動物が駆ける、鳥が飛ぶ、蝶が舞う、魚が泳ぐ、そんな生きものの生の躍動に焦点を当てるのは誰でも思いつくことであり、言わば当然の成り行きなのだが、密怪生命では生の次、いや生の前にある死に焦点を当てて、死から生への連綿とした命のつながり、やり取りを見事に表現している。

生きものの死を表現する写真家と言えば、自然界の報道写真家を標榜する宮崎学氏と、アラスカに生きる人と生きものの生命の地図をテーマにしていた星野道夫氏が挙げられる。

宮崎氏は死をつぶさにそしてありのままに写し撮って、観る側に問題提起をする手法を用いているが、星野氏は写真だけでなく自分の気持ちを紡いだ言葉による表現を好み、観る者と同時に読み手にその思い、命のつながりを伝える方法を取っている。

密怪生命では、死体やその成れの果てを記録している時点で宮崎氏と似ているが、一瞬これは何を撮ったもの?と観る側に考えさせはするものの、意図するしないは別にして、深く思考しなければそれは一枚一枚が完成された美しいカットにもなり、一歩踏み出して、例えば冬虫夏草だと判れば、死が次の命の糧になることを暗示させるカットにもなる。

写真を見る側の姿勢や思いによって、どちらにも受け取れるような構成になっているのは、佐藤氏の考えなのか、はたまたデザイナーの仕事なのかは判らないが、密怪生命はなかなかアグレッシブに攻めたチャレンジャーな作品集と言えよう。

それと密怪のイメージとして何となくダーク感があるが、一連のカットが影や陰、それに闇などシャドウを強調した作風にまとめてあるが、各主題にはしっかりスポットが当たっているなど、暗い林内における撮影技術も巧みで感心させられる。

この写真集がこの値付けで商業的に成功するようであれば、とかく出版不況で写真集は暗い未来しか見えてこない状況において、写真集制作にもまだまだチャンスがあると思わせてくれる、そんな気がしてならない。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mm F2.8 R LM WR / PROVIA / 1/2にトリミング

森で密怪な生命を探してみたが、凡人にはヤマトシジミぐらいしか目につかず。気温が低いので近づいてもまったく逃げない。

ところで、密怪生命は先月オリンパスギャリーへ写真展を観に行くつもりでいたのだが、上京する仕事が先送りになってしまって、結局観に行けずじまいだった。

そんなことで、密怪ならぬ密林から写真集を手に入れて、チビチビとスコッチ飲みながら夜ごとページを捲っている、という状況を先週飲み会の席で話題にしたところ、取引先の若い子たちが是非見たいというので先日の打ち合わせの時に見せてきたが、皆興味津々で顔寄せ合って眺めていた。

何人かはその場で早速密林に注文を入れていたが、意外にインスタばえだけに興味があるというわけでもないのだなと、ちょっと今どきの若い子らを見直した次第である。

カテゴリ:写真家, 小動物|タグ:
ポートフォリオ
portfolio
ネイチャーフォトサービス
photrest site banner
最近の記事
2019/5/19
緑映える雪国の春
写真はちょっと前に雪国某所を山越えした際のもの。豪雪地帯の初夏を彩る緑色はアクセントカラーだね。 F ...
2019/5/18
隙間を探せ
春から夏にかけて、低山から亜高山帯までよく耳にするホーホケキョのフレーズ。 言わずと知れたウグイスの ...
2019/5/17
ヒゲエナガ
何やら妙な形の小鳥が枝陰をウロウロ。あいにく葉が被っていてなかなか姿を確認できず。 闇雲に追いかけて ...
2019/5/16
夏鳥追加
オオヨシキリ、サンコウチョウ、コルリ、コノハズク(声のみ)を先週からここ数日にかけて初認。あ、GW中 ...
2019/5/15
波波迦
上溝桜とは、先だって皇室行事の大嘗祭でも話題に上った亀甲占いにおいて、溝を彫った板の材料に使われたこ ...
2019/5/14
ヒバケツ
SNS界隈では生きものの尻を撮るのが流行っているようなので、当ブログからはヒバリのケツを。 FUJI ...
2019/5/13
X-T3のプリ連写
4K/60Pを10bitで内部記録できるX-T3の動画性能は、連続した録画時間の長さを除けば、パナの ...
2019/5/12
今年初クマ
奥山の某所を目指す途中、谷筋からブナ林を抜けるのだが、冷涼な県北の春は遅いため、芽吹きもまだこれから ...
2019/5/11
残雪山行
一昨日は今シーズン最初の山行調査。久しぶりに観察機材と撮影機材をがっつり背負って高山へ。 登坂中は大 ...
2019/5/10
ハレの日ガスの日
昨日は久しぶりに奥山の高い稜線部に上がって鼻水垂らしながら谷底を見下ろしていたのに、今日は急遽お江戸 ...
アーカイブ
以前のブログ記事はこちら 
  • 当サイトはプライバシー保護のためSSL暗号化通信によって保護されています。