侵略的外来種
季節を問わず大きな声でにぎやかにさえずるガビチョウは、日本生態学会から日本の侵略的外来種ワースト100に指定されているいわゆる外来生物である。
拙者が鳥を観察し始めた頃はガビチョウなどまったく情報がなかったが、この20年スパンでみるとその分布拡大はめざましく、今やほぼ関東全域でその定着が確認されている。
ほぼというのは、ガビチョウの仲間は基本的に地上性で多雪地帯では越冬が厳しいため、関東でも群馬・栃木の北部山沿い地域では冬季に定着している様子はない。ちなみに拙者の観察では、夏季に川場村で確認した事例がある。
関東以外では九州北部で定着個体群が確認されているが、とりあえず全国規模での拡大はまだそれほど進んでいないものの、関東以南以西への波及は時間の問題だろうか。
ただ不思議なのは、鳥類は基本的に翼で自由に移動できるので、その気になればすぐにでも他所へ行くことができるのに、関東以外への分布の広がりが想像よりは進んでいない点である。やはり生きものがその勢力を拡大するには、餌の確保と食性、競合種との関係や地勢的な理由など、我々が机上で考えているより複雑な要因があるということだ。
とは言え、カワウの全国規模の分布拡大を見ていると、通年餌を確保できる環境が用意されるとあっという間に増えることがわかっているので、やはり最も重要なのは一年を通して食うものがあるかどうかということになろう。
ちなみに渡り鳥が季節移動する理由はまさにその餌資源を求めてのこと。特に繁殖期には子育てに膨大なタンパク質を必要とするので、昆虫が大発生する夏季の繁殖地の選択は重要なのである。
気配を感じたのでその方向にOM-1を向けたら、ファインダー内に姿を現したと同時に被写体認識され、C-AFだったのでそのままシャッターを切って確認したらカオジロガビチョウだった。
昔はガビチョウの情報はなかったと書いたが、実はカオジロガビチョウの存在は当時から知っていた。本種も日本の侵略的外来種ワースト100に指定されている。
赤城山の南面ではその当時から籠脱けと思われるカオジロガビチョウの存在は知られており、関東各地からわざわざ探しに来るバーダーがいたのである。
ただこれまた不思議なことに、名前の通り目下勢力拡大中のガビチョウの近縁種なのに、当時からあまりその生息範囲が広がっておらず、この30年スパンでみても県内では前橋市内を中心にせいぜい東毛地区と隣の栃木南部周辺、それに利根川に沿った千葉辺りまでにとどまっているのである。
侵略的外来種の問題は餌資源が競合する他種への影響だが、もしかしたらガビチョウの分布拡大でもっとも影響を受けたのが、赤城南面を祖とするカオジロガビチョウだったのかなとちょっと思ったりしている。