カメラメーカー雑感
デジタデジタルカメラ市場はスマホに押されて縮小傾向にあるのは昨日今日始まった話ではないが、この状況を想像できてなかったメーカーはどこも苦しいお家事情のようだ。
キヤノンはすでに報道で四半期決算が約180億円の赤字と言われている。市場で人気のキヤノン株ですら、年頭からみれば50%近くも株価が下落していて、この半期だけでも時価総額で2兆円近く消えて無くなった計算になる。
直近で見れば新コロナ渦の影響が多大..在宅ワークの広がりでオフィス機器の需要が下落中..であるという言い訳はもっともらしくわかりやすいが、それ以前から事業の構造的問題に起因しているのは明らかであろう。
メーカー各社の市場シェアは新製品の発表タイミングやキャンペーンの動向に左右されるので、一概にこれといった数字を出すのは難しいが、ここ2年ほどのデータだと次のようになっている。
販売台数別シェア | |||||
デジタルカメラ全体 | ミラーレスカメラ | ||||
1 | キヤノン | 37.3% | 1 | ソニー | 42.5% |
2 | ニコン | 26.7% | 2 | キヤノン | 19.8% |
3 | ソニー | 13.1% | 3 | 富士フイルム | 17.5% |
4 | オリンパス | 6% | 4 | オリンパス | 8.4% |
5 | 富士フイルム | 5.8% | 5 | パナソニック | 7% |
6 | その他 | 11.2% | 6 | ニコン | 4.6% |
BCNランキング(2018年4月〜2019年3月) | テクノ・システム・リサーチ(2018年度) |
一眼レフとコンパクトカメラまで含めると従来からあるシェアの印象通りといったイメージだが、ミラーレスカメラに限定すると動きが出てくる。
2018年はキヤノンとニコンが本格的に35mmフルサイズのミラーレスカメラを市場に送り込んできた年なので、直近のシェア感覚と異なるイメージだが、それでもソニーのシェアは圧倒的だ。
ほとんどのカメラメーカーはデジタルカメラとレンズだけ作っているわけではないので、一般的に我々ユーザーがイメージするメーカーの市場シェアが企業の価値を決めているわけではないことは知っておいたほうが良い。
メーカー各社のデジタルカメラ関連事業のセグメント別割合を調べてみたが、各社とも純粋な数字や割合を公表しておらず、映像事業全体みたいな括りで表現しているので、なかなか正確な数字にならないが、近年は概ね次のような割合になっている。
デジタルカメラ事業の割合 | ||
ニコン | 約38% | |
ソニー | 約24% | イメージセンサー事業を含む |
キヤノン | 約23% | |
パナソニック | 約14% | デジタルカメラだけの数値は不明 |
富士フイルム | 約14% | |
リコー&ペンタックス | 約10% | デジタルカメラだけの数値は不明 |
オリンパス | 約6% | |
注:数字は各社公表のセグメント別売上から類推 |
ソニーは堅調なイメージセンサーを含んだ数字で、純粋なデジタルカメラ事業の割合は不明。
パナとリコーも同じく純粋な割合は不明だが、両者とも本業は別にあるので、実際のデジタルカメラ事業の占める割はもっと少ないと思われる。特にパナの事業が多種多様なのはよく知られた通り。
これに各メーカーの直近(2020年3月通期の連結)の売上高を合わせて見てみると。
売上高 | ||
ソニー | 約8兆3000億円 | |
パナソニック | 約7兆5000億円 | |
キヤノン | 約3兆6000億円 | 2019年12月通期 連結 |
富士フイルム | 約2兆3200億円 | |
リコー | 約2兆円 | |
オリンパス | 約8000億円 | |
ニコン | 約6000億円 |
企業規模でソニーとパナが別格なのは言わずもがなだが、特にソニーはメーカーというより金融会社と言ったほうがもはや適切なほど、その筋の人から見たらデジタルカメラのイメージは希薄だろう。
そして企業全体の同期の利益率となるとさらに興味深い数値が..
利益率 | ||
オリンパス | 10.5% | 自己資本比率 36.5% |
ソニー | 10.2% | 自己資本比率 20.8% |
富士フイルム | 8.1% | 自己資本比率 60% |
キヤノン | 4.9% | 自己資本比率 60.6% |
パナソニック | 3.9% | 自己資本比率 32% |
リコー | 3.9% | 自己資本比率 32% |
ニコン | 1.1% | 自己資本比率 54% |
売上高はその企業の規模を現すわかりやすい数字となるが、実際の企業体力は財務力といかに利益を生み出せる体質であるかにかかっており、利益率が高いというのは重要な要素の一つだ。
最も利益率の高いオリンパスが最も早くデジタルカメラ事業を手放しているのは面白い。自己資本比率が低いことからも分かる通り、それだけ株主の声が強く、デジタルカメラ以外の事業が優良且つ堅調で将来性が高いということを現していると言っていいだろう。
こうして数字で見てみると、オリンパスが赤字続きのデジタルカメラ事業を手放したのは株式会社として至極当たり前の判断であって、決して企業全体の業績不振が理由ではないことがわかる。
そしてもうお気付きだろうが、オリンパスとは逆にデジタルカメラ事業の割合が圧倒的に高いのに、利益率がかなり低いのが、かつての業界の雄であったニコンだ。
実際、ニコンの今年度の通期は500億円近い赤字の見通しとなることが分かっている。この上四半期だけですでに前年同期比約60%の減なので、新コロナの影響をモロに被ってしまっている。
オリンパスの身売り話を対岸の火事と思っている他のメーカーブランドのユーザーは多いが、実は今一番危うい状況に置かれているのがニコンで、第二のオリンパスの可能性が囁かれているのも同社という話だ。
実際のところ、オリンパスのデジタルカメラ事業割合は切り離しても本業にそれほど影響はなく、むしろ有望な事業に集中できるのだが、事業割合が圧倒的に高いニコンにはその同じ手が使えないのが、投資家から見たら不安材料でしかないということになる。
企業経営は選択と集中の見極めが大事と言われるが、そういう意味でオリンパスとニコンは明暗を分けた感があるな。