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名前だけはよく知られているが、実際に日本の野外でその姿を見ることはない、そんな代表的な生きものの一つがカメレオンだ。

周囲の環境に合わせて体色を変化させるその能力は、「あいつはまるでカメレオンのようだ」的な比喩ですでに人の生活に言葉として溶け込んでいるが、実際のカメレオンが生息するのはインドとその周辺、アラビア半島の南部、アフリカ大陸の一部とマダガスカル島だけである。

カメレオンの仲間は100種類近く..亜種まで含めるともう少しいるかも..確認されているが、その半数はマダガスカル島に生息していると言われている。

そのマダガスカルで1913年にドイツの学者が発見して以降未確認だった「Voeltzkow」が、約100年ぶりに発見されたとのことだ。Voeltzkowはその発見者の名前である。

カメレオンの寿命は種によってはまちまちで、長い種で数年、短いと半年程度という種もいる。爬虫類好きにペットとして人気があるようだが、そういう意味では愛玩動物としては不適ではないだろうか。

幻と言われていた件のVoeltzkowが長らく未発見だったのも、短い雨季の期間だけしか生息していないという寿命の短さにその理由があるようだ。

発見された場所は開発が進む熱帯降雨林の伐採地だったというが、我々が訪れた1990年代後半の時点でもすでにマダガスカル全島で無秩序に開発が行われていたので、貴重な固有種が今でも人知れず失われている可能性は否定できない。

大雑把に言うとマダガスカルはアフリカ大陸に面した西側、特に南西部は乾燥地帯で、インド洋に面した東側はモンスーンの影響を強く受けるため降雨量が多い。

それ故に温帯湿潤な森は東側に多く集まり、必然的に伐採を伴う森林開発が進むのも東側ということになる。開発理由は東南アジアの島国と同様、農耕地を求めてということになるが、空路アンタナナリボへの降下中に目にする広大な赤茶けた裸地は、なかなか考えさせられる眺めであった。

Canon EOS-1n / EF70-200mm F2.8L / PROVIA / ストロボ使用 / カメレオンsp.

初めて野生のカメレオンを観たのは首都アンタナナリボの東に位置するペリネ特別保護区であった。

マダガスカルには私有地内にあるプライベートな保護区もあるが、ペリネの森はアンダシベ国立公園の一角にあるその名の通り国の管理により保護区である。

インドリなど森林性の原猿を観察するのに地元のガイドに案内を頼んのだが、その合間のちょっとした休息中にも関わらず、林縁で数種のカメレオンを見掛けた。

原猿にしろカメレオンにしろ、あれだけ開発の進む荒んだ状況にあっても、未だ新種の発見や絶滅危惧種の再発見が続くマダガスカルの生きもののポテンシャルはかなり高いとも受け取れるが、それがあと半世紀も持たないのではないか?と感じてから早20数年。

まだ彼の地に地力のあるうちに、時間が許せば再訪したいと思うことがある。

東アフリカのマダガスカルの東方、インド洋に浮かぶ島国モーリシャスで、座礁した日本船籍の貨物船わかしお(長鋪汽船所有)から燃料が流出する海難事故が発生した。

わかしおは中国で積荷を降ろした後、インド洋経由でブラジルに向かう途中、海が荒れて同国内で座礁したらしく、燃料油タンク4000トンの一部が破損、そのうち約1000トン分が流出したとのこと。過去の同様の事故に比べて特別に流出量が多いわけではないが、問題なのはその場所だ。

ラムサール条約にも指定されているポワントデスニーの美しいラグーンが、流出した重油にまみれている状況は何とも痛ましく、貴重なサンゴ礁の他、周辺海域の生態系への影響が懸念されている。モーリシャスの経済は観光と漁業で成り立っているので、海が汚染されることは死活問題である。

モーリシャスは英が宗主国であるが、もともとは仏領だったこともあってフランスとの関係も深く、今回の事故を受けて同国海軍が専門の対策チームを派遣し、国連の専門家と共同で事態収拾に尽力しているとのことだ。

日本からも商船三井が専門チームを派遣してすでに現地入りしているが、たった6人では何とも心もとない。日本国内でも23年前に日本海で起きたナホトカ号重油流出事故は記憶に新しいが、その際に重油回収に自衛隊が協力しノウハウや知見が残っているはずなので、災害救助隊として派遣するなど検討しても良いのではないだろうか。

何より地元の人達が油まみれになりながらバケツリレーで賢明に回収作業に当たっているのを見ていると、ふとそんなことを思ってしまうぞ。

それにしても本件についての国内報道が異様に少ないのが気になる。日頃から無駄に「日本スゴイ!」を喧伝しているので、日本船籍の船が他国で迷惑をかけているのはよほど不都合なのか、それとも船主である商船三井という大手海運会社に忖度でもしているのか。

良いことをしている日本人ばかりに目を向け悦に浸るのではなく、日本が関係している良くないこともしっかり報道すべきだろう。

Canon EOS-1n / EF20-35mm F2.8L / 座礁船

25年前のマダガスカルにて。インド洋に面した同島南端のトラニャロ..仏語ではフォール・ドーファンと呼ばれている..の海岸にも、何隻もの座礁船が放置されていた。

インド洋は太平洋や大西洋に比べて面積こそ小さいが、季節風と深層海流の影響を強く受けている。特に季節風によって海流自体が季節ごとに消滅したり反転したりするのが特徴だ。

大航海時代より喜望峰を経由して欧州とアジアを行き交う数多の船がいたが、それと同じく数え切れないほどの船が海の藻屑と消えた歴史もあるのだろうな、そんなことを想いながら若き日の自分が写したのがこの1枚である。