山道を歩いていると、視野の隅に大きな影が動くのが見えた。
休憩がてら道脇に装備一式降ろし、ホルスターから望遠レンズ付きのカメラを取り出す。
山道は尾根筋に付いているため、覗き降ろすように谷側の斜面にゆっくり顔を出すと、大型のけものが尻をこちらに向けて佇んでいるのが見えた。とっくにこちらには気付いているはずだが、我関せずとばかり、下を向いて食事に夢中である。
登坂で荒くなった息を静めて、最小限の足音で背後からゆっくり忍び寄る。するとおもむろに顔を上げてこちらを睨む。同時にこちらも動きを止める。
そんな達磨さんが転んだを数回繰り返し、10mほどに近づいたところで倒木に腰を下ろす。今度はあっちも顔を降ろさず身じろぎもしない。
そっとカメラを構え、数枚シャッターを切る。構図を変えようと縦位置に構え直す動作で、ようやく静々と歩き出した。
5mほど歩き出してから、それまでののんびりとした動きがウソのようにダッシュで藪をかき分け、隣接する杉林へと消えていった..
フィールドでよく出会うけものの筆頭は、サルとこのカモシカだ。蹄系ではシカもそれなりに見掛けはするが、冬季の積雪の関係でやはりカモシカが多い。
ここも一ヶ月もしないうちに辺り一面白く覆われ、厳冬期には2mの積雪となる。
先日初雪となった我が家の駄犬でさえ衣替えを済ませているが、今日出会ったこの山親爺も、立派なその体躯にすでに冬毛をまとって準備万端のようだ。